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東京地方裁判所 昭和25年(行)45号 判決

原告 大上登志子 外一名

被告 社会保険審査会

一、主  文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、船員保険審査会が昭和二十五年三月三十日付でなした、原告大上に対する「保険審査官の決定を取り消し保険者(厚生大臣)は大上に対し昭和二十四年十月一日以降遺族年金七万四千八百円を支給するものとする。」との決定、原告河野に対する「保険審査官の決定を取り消し保険者(厚生大臣)は河野実二に対し遺族一時金十四万四千円を支給するものとする。」との決定はいずれもこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告大上の夫大上一雄は昭和二年四月原告河野の子河野敏勝は昭和十九年四月共に訴外川崎汽船株式会社に船員として入社した者で船員保険法(以下単に法という。)によつて被保険者の資格を有し昭和二十四年六月一日以降の標準報酬等級は一雄が第十四級敏勝が第五級であつたが、同会社所有の船舶青葉丸に乗組中同船は同月二十日愛媛県高浜港より門司港に向う途中暴風(所謂デラ台風)に遭い翌二十一日午前三時三十分頃周防灘姫島沖附近で沈没し爾来三ケ月間右両名ともその生死が不明であつたため、法第十一条に基き、同法の適用については両名とも同年九月二十一日に死亡したものと推定され、厚生大臣より同年九月二十一日付で保険給料付として、原告大上に対し年金七万四千八百円原告河野に対し一時金十四万四千円を各支給する旨の決定があり、右決定は同月三十日原告大上に同年十月十五日同河野にそれぞれ送達された。而して右決定の金額算出の根拠は原告大上の年金については、青葉丸沈没当時の大上一雄の標準報酬等級第十四級月額金一万四千円を基準とし、法第五十条の二第一項第五号によりその五月分に相当する金七万円と法第五十条の三第二項に該当するものとして法第四十九条の四による二子の分、計金四千八百円とを合算したのであり、又原告河野の一時金については前記沈没当時の河野敏勝の標準報酬等級第五級月額金四千円を基準とし法第四十二条の三第一項による三十六ケ月分金十四万四千円を一時金としたものである。けれども右年金及び一時金算出の基準たるべき標準報酬等級は青葉丸沈没当時のものによるべきではなく、法第十一条により沈没の時から満三月を経過して死亡と推定された昭和二十四年九月当時のものによるべきものであるところ、青葉丸沈没後、報酬の一般的増額(所謂賃金ベースの引上)により同年八月一日以降標準報酬等級は大上一雄については第十八級(月額二万二千円)、河野敏勝については第八級(月額六千円)となつたので、右各等級により算定さるべきものである。よつて原告等はいずれも前示決定を不服として原告大上は同年十一月二日東京都保険審査官に原告河野は同年十月三十日兵庫県保険審査官に審査の請求をなしたところ、右両審査官とも審査請求を理由ありとし、原告大上に対しては昭和二十五年一月十六日付原告河野に対しては同月八日付それぞれ被保険者の死亡推定日の属する月の標準報酬月額を基準にして保険給付額を算定すべきものとする旨の決定がなされ、前者は同年二月一日後者は同年一月二十七日に保険者である厚生大臣に送達された。しかるに厚生大臣は右決定をいずれも不服として同年三月三十日船員保険審査会に審査の請求をなしたところ、同審査会は同日付で請求の趣旨掲記の審査決定をなし右各決定は同年五月六日原告等に到達したのである。併しながら法第六十三条第一項による審査の請求は保険給付に関し保険者のなす行政作用を適法かつ正当なものとし保険給付に不服ある者を救済することを目的とする一種の訴願であり、同項の規定の体裁からしても処分庁たる保険者にまで審査請求権を認める旨の明示的な文言を欠いているのであるから、審査請求権者は保険給付決定に不服のある者に限られることが明かであるにかかわらず、審査請求権のない厚生大臣がなした不適法な審査請求に対しこれを却下することなく実体的審査をなし、それに基いてなした船員保険審査会の各審査決定は既にこの点で違法を免れない。仮に厚生大臣の右審査請求が適法であるとしても、本件各審査決定が船舶青葉丸沈没の日の属する昭和二十四年六月の各被保険者の標準報酬月額を以て各最終標準報酬月額としこれを算定基準として各保険給付額を決定すべきものとした理由は、(一)死亡推定日の属する月の標準報酬月額を保険給付額の算定基準にすると、(1)通常は船舶の沈没により船員の雇入契約が終了する結果死亡の推定される日の属する月の標準報酬月額が零となり法第二十七条ノ三第三項の適用により平均標準報酬月額が保険給付額算定の基準とたるため受給者に著しい不利益を及ぼすことになり、(2)死亡の推定される迄の三ケ月の間に標準報酬が改訂されることにより同一保険事故に基因しながら右改訂前その死亡を確認された者と生死不明者との間に保険給付額につき著しい不均衡を生ずる等保険法の趣旨とする公平妥当の目的に背馳する結果となる、(二)保険事故発生の原因を追究する法第二十七ノ三第二項の規定の趣旨に鑑み本件の場合にこれを類推すれば本件船舶沈没の日を被保険者等の死亡の原因たる事故即ち疾病乃至負傷の発した日と解するのが相当であるというのであるが、(一)(1)船員の特定船舶への乗組を目的とする雇入契約と、船員と船主との間に締結される一般的な雇傭契約とは厳に区別すべく、船舶の沈没によつて終了するのは前者であり通常は後者が依然継続しているのであるから死亡推定日の属する月の報酬額が零となることはないし、一般的雇傭契約の存しない場合には法第二十七条ノ三第二項を被保険者の利益に解して船舶沈没の日の属する月の標準報酬月額を基準として保険給付額を算定すれば足り、(2)船舶の沈没によりその死亡を確認された者と死亡の推定を受けた者とは死亡という保険事故の発生時期を異にするのであるから本件のように其の間にたまたま標準報酬の一般的改訂が行われた場合でも右両者の取扱を異にするのは少しも不均衡とはいえないし、報酬額の一般的な改訂の行われるのは極く稀であるから被保険者の死亡推定日の属する月の標準報酬月額を給付額算定の基準としても論理必然的に異つた取扱をなす結果になるわけではない。(二)また、法第二十七条ノ三第二項は保険事故の発生原因を探究する趣旨の規定ではなく被保険者の利益のための便宜的規定であり、かつ本件保険事故は船舶の沈没ではなくその沈没後被保険者等が三ケ月間生死不明であつた事実なのであるから、同規定の適用上船舶沈没の日を保険事故発生の日と解する根拠はなく、結局本件各審査決定が船舶沈没の日の属する昭和二十四年六月の各被保険者の標準報酬月額をもつて保険給付額の算定基準とする理由はいずれも合理性を欠いている。むしろ以上に述べたところから明かなように本件保険事故である各被保険者の死亡の事実は青葉丸沈没後同人等の生死が不明のまま三ケ月経過したことに原因するのであるから、法第十一条第一項第二十七条ノ三第二項の適用上各被保険者の死亡の推定された昭和二十四年九月現在における各標準報酬月額を最終標準報酬月額とするのが正当であり、各被保険者ともその死亡推定の日まで法定の保険料の支払を了していることからもその正当性を窺知するに足るものというべく、原告大上は前記一雄の妻として遺族年金受領の第一順位者であり他に十六歳未満の遺子二人があるので、法第五十条第三号第五十条ノ二第一項第五号第四条による標準報酬第十八級月額二万二千円の五月分十一万円及び法第五十条ノ三第二項第四十九条ノ四による遺子に対する加給分一人につき二千四百円を合算した金十一万四千八百円を遺族年金として支給されるべきであり、前記敏勝には遺族年金の支給を受けるべき者がなく法第四十二条ノ三第一項第四条第二十三条ノ四により同人の父である原告河野は敏勝の母と同順位で遺族一時金として標準報酬第八級月額六千円の三十六月分金二十一万六千円を支給されるべきのところ、前述のごとく各被保険者の昭和二十四年六月の標準報酬月額を最終標準報酬月額として請求の趣旨掲記の保険給付額を算定した本件各審査決定は船員保険法の解釈を誤つた違法な処分であり、昭和二十五年四月一日施行の同年法律第四十七号社会保険審議会社会保険医療協議会社会保険審査官及び社会保険審査会の設置に関する法律により、新たに社会保険審査会が設置され同法施行前船員保険審査会においてなされた事件の受理其他の手続は被告においてされた事件の受理其他の手続とみなされることになつたから右各審査決定の取消を求むべく被告に対し本訴に及ぶ次第であると述べた。(立証省略)

被告代理人等は請求棄却の判決を求め、原告等の主張する事実関係はすべて認める。法第六十三条第一項の条文の体裁から言えば原告等主張のように保険審査官の決定に対し審査の請求をなし得るのは保険給付に関する保険者の決定に不服ある者に限るものと解釈できることはないけれどもこれは甚しい形式論であり、単に規定の体裁だけから考えても同法と同じ社会保険立法に属する厚生年金保険法第六十二条健康保険法第八十条国民健康保険法第四十八条失業保険法第四十条労働者災害補償保険法第三十五条各第一項によればむしろ保険者の側にも第二次的な審査請求権を認める趣旨と解されるから法第六十三条第一項を右諸規定と統一的に解するのが合理的であり、実質的に見れば、同条の保険審査官及び船員保険審査会は保険給付に関する処分庁たる厚生大臣とは全く別箇独立の一種の裁判機関であつてその審査手続の下では受給者及び保険者が対立当事者として対等の地位を有することは疑なく、右審査手続が保険者の決定に対する受給者の審査請求によつて開始されることから第二次の審査請求権者まで受給者に限定すべき理由はないから、厚生大臣が船員保険審査会に対する審査請求権を有しないことを前提とする原告等の請求は失当である。次に(一)本件のような場合に被保険者の死亡推定日の属する月の標準報酬月額を基準として保険給付額を算定すると、(1)船員の特定船舶えの乗組を目的とする雇入契約と船員と船主との間に締結される一般的な雇傭契約とはもとより区別さるべきものであるが、すべての場合に右のような一般的な雇傭契約が存するとは限らないしまた右契約が存する場合これを解除することも可能であり、結局被保険者の推定による死亡当時一般的な雇傭契約が存続していないときは船舶沈没の日の属する月の標準報酬月額を算定基準としない限り保険給付額の算定が不可能となるため法規解釈の一貫性は失われ(2)同一船舶の沈没を原因としながらその乗組船員の中死亡を確認された者と生死不明者との間に保険給付額に関し甚しい不均衡を来し、結局公平妥当な保険制度運用の趣旨に背馳することとなり、(二)他面、死亡推定に関する法第十一条第一項は、船舶沈没による生死不明という事実が法の規定する保険事故のいずれにも該当せずさりとて民法の失踪宣告の手続を経由して保険給付を受けるのでは受給者に著しく酷な結果となるので、保険給付請求の手続を簡易にするために設けられた特別規定であるにとゞまりこの規定をもつて直ちに法第二十七条ノ三第二項との関連上被保険者の死亡推定日の属する月の標準報酬月額を保険給付額算定の基準とする根拠となすことはできず、右死亡推定日までは被保険者はその生存を推定されその資格を保有しているのであるから被扶養者があれば法に定める諸給付を受け得るとともに法定の保険料を徴収されるのは当然であり、保険事故たる死亡が疾病を原因とする場合被保険者が死亡するまでは保険料を徴収される反面その発病の時を標準としてその保険給付額が算定されるのと対比すれば何等異とするに足らない。むしろ法第二十七条ノ三第二項を本件に当て嵌めて考えるに死亡の原因たる疾病又は負傷の事実が不明であるから右規定の直接の適用はなく、同規定の文言から明かな保険事故の発生原因の探究という趣旨にしたがつてこれを類推適用すれば、船舶青葉丸沈没の事実が各被保険者の推定による死亡の原因であることは疑ないから同船舶沈没の日の属する昭和二十四年六月の各被保険者の標準報酬月額を基準にして各保険給付額を算定するのが相当であるところ、同六月現在の標準報酬月額は被保険者一雄の分第十四級一万四千円同敏勝の分第五級四千円であるからこれを基準にして原告主張どおり法にしたがつて算定すると、原告大上に支給すべき遺族年金七万四千八百円同河野に支給すべき遺族一時金十四万四千円となるから、右と同一の趣旨でなされた本件各審査決定に何等違法の点はなく、その実体的な違法を理由とする原告等の各請求も理由がない。と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告等の主張する事実関係はすべて被告の認めるところである。

そこでまず船員保険の保険者である厚生大臣が保険審査官の審査決定に対し船員保険審査会に審査の請求をなす権利を有するかどうかの点について考えるに、法第六十三条第一項の文言だけでは右審査請求権は有無いずれとも断じ難いのであるが、船員保険法によれば審査機関である保険審査官及び船員保険審査会は保険給付に関する決定をなす処分庁たる厚生大臣乃至都道府県知事の上級庁でないのは勿論のこと処分庁と別箇の機関であることは疑なく、殊に船員保険審査会は被保険者船舶所有者及び公益を各代表する三名宛の委員をもつて構成され審査の決定にあたり委員の意見が可否同数に分れた場合決定権を有するのは公益代表委員たる一人の会長であること、処分庁及び受給者双方とも審査機関に対し審査に関する意見を陳述する機会が与えられていることから推して、右審査制度は行政処分をなした処分庁又はその上級庁に対し当該処分の違法乃至不当を主張して再審査を求める訴願とはその本質を異にし、その対象となる処分の違法か否かを第三者的立場から決定するため一種の準司法機関としての審査機関のなす簡易な訴訟手続の実質を有するもので、審査決定の主文において保険給付に関する具体的処分内容を積極的に示す場合もその決定の本件はあくまで審査の対象たる処分の違法か否かの判断に尽きるのであつてその具体的処分内容を明示する点で裁判所の裁判と異る場合があるとはいえ、それがために審査手続の訴訟手続たる実質を左右するものではない。したがつて、右審査手続の下では処分庁並に受給者が当事者として対等の地位にあり、審査決定に不服がある場合に当事者双方とも不服申立の権利を有することはその手続の本質から当然要求されるところであつて、かく解することにより船員保険法とその性質を同じうする社会保険立法である厚生年金保険法第六十二条、健康保険法第八十条、失業保険法第四十条、労働者災害補償保険法第三十五条各第一項の審査請求に関する諸規定と矛盾なく統一的に解釈することができるのである。結局本件において東京都及び兵庫県各保険審査官がそれぞれ昭和二十四年十一月二日同年十月三十日になした各審査決定につき厚生大臣が船員保険審査会に対し審査の請求をなす権利を有することは明かであるから、厚生大臣が右審査請求権を有しないことを前提とし本件各審査決定の違法を主張する原告等の請求はいずれもその理由がない。

次に原告等は、船員保険審査会のなした本件各審査決定には、船舶青葉丸沈没の日の属する昭和二十四年六月の各被保険者の標準報酬月額を各保険給付額の算定基準とした点に船員保険法の解釈を誤つた違法があり、各被保険者の死亡推定日の属する同年九月の各標準報酬月額をその算定基準とすべきであると主張するのでこの点について考案するに、被保険者の死亡の推定に関する法第十一条第一項の規定が、民法の失踪宣告の手続を俟たずに簡易迅速に受給者に保護を与える目的を有することは疑ないが、更に同法の適用上その他に特別の意味を有するか否かは必ずしも明かでなく、又法第二十七条ノ三第二項によると被保険者の最終標準報酬月額を決定するのは保険事故たる廃疾乃至死亡という事実の起つた時期ではなくその事故の原因の発生した時期であることが明かであり、しかも同項はその原因として疾病並に負傷を挙げているにとどまるから被保険者の死亡の原因としての疾病乃至負傷等の発生時期の不明な本件には同項の直接の適用がないものと解するのが相当である。ところで右両法条だけで事を論ずれば、船舶青葉丸沈没の後被保険者の生死が不明のまま三ケ月を経過した事実を保険事故たる死亡の原因と解し右三ケ月経過の日によつて最終標準報酬月額を決定することも、また右船舶沈没の事実を右死亡の原因と解しその沈没の日によつて最終標準報酬月額を決定することも可能であり、そのいずれが正しいかを決めるには、むしろ両法条外に社会保険立法の一つとしての船員保険法の全般の規定の趣旨から考えなければならない。原告主張の死亡推定日の属する月の標準報酬月額を算定の基準とする解釈は先ず第一に船員の特定船舶への乗組を目的とする雇入契約が当該船舶の沈没によつて終了することは船員法第三十九条第一項第一号により明かであり、この場合右雇入契約以外に常に船員と船主との間の一般的な雇傭契約が存続しているとは限らないのであつて、例えば特定船舶の特定航海のために雇入れられた船員のごとき当該船舶の沈没の結果その死亡推定日の属する月の標準報酬月額は零となり、法第二十七条ノ三第三項により平均標準報酬月額が保険給付額算定の基準となるため受給者に不当な不利益を及ぼす場合が多く、さりとて原告主張のように死亡推定日の属する月の標準報酬月額が零となる場合に限り法第二十七条ノ三第二項を受給者の利益に解して船舶沈没の日の属する月の標準報酬月額を算定基準とすることは余りに法の適用の一貫性を失わせ法規の解釈を歪げるものである。第二に本件のように三ケ月の死亡推定期間中に報酬額の一般的な改訂が実施された場合同一船舶に乗組む船員の中右改訂前に死亡を確認された者と死亡を推定された者の各受給者の間に保険給付額について不均衡を生ずることは明かであり、この場合死亡のもともとの原因は船舶の沈没という同一の事実なのであるから、単に保険事故である被保険者の死亡の時期が異ることを理由に両者の取扱上の差異を以て当然のこととするのは、余りに形式的な解釈であり、上叙のような不均衡は個々の受給者の保護を厚くせんとするのあまり保険立法の趣旨とする公平妥当の目的に背反するものであつて、加うるに報酬額が改訂によつて減額された場合を想定すれば受給者を保護する趣旨にも合致しない結果となるのである。第三者に被保険者の死亡の原因を船舶沈没の事実から一応切離して考えその後三ケ月を経過した日に死亡の原因となる事実が発生したと解するならば、被保険者が職務上死亡したものと認めてそれにもとずく保険給付を支給することが困難となり受給者に著しい不利益を及ぼす虞があるわけである。これに対し船舶沈没を死亡原因と解し、その沈没の日の属する月の標準報酬月額を基準とする場合に起り得る不合理な点の有無について考えるに、原告等は、各被保険者が死亡推定日まで法定の保険料を徴収されていた事実をあげて右の解釈との間に矛盾が存する旨主張するけれども、被保険者は死亡を推定される日までは、その生存を推定される結果、船主との間の一般的雇傭契約の存している本件のような場合には依然被保険者としての資格を保有しているわけであるからその間保険料の支払義務を負うのは当然であり、被保険者の死亡の原因が疾病である場合その死亡の時迄は被保険者としての資格を保有し保険料支払の義務を負うている反面その保険給付額はその発病の日の属する月の標準報酬月額を基準として算定されるのと対比すれば格別の矛盾も存しないことは明かであつて、その他右の解釈を採ることから起るべき特別不合理な点は認められぬのである。

以上に述べたところから船舶沈没の日から三月間その生死不分明のため死亡推定を受けた場合の遺族年金又は一時金算出については法第二十七条の三第二項を類推適用し、且その類推にあたり船舶沈没の日の属する月の被保険者の標準報酬月額を保険給付額算定の基準とするのが船員保険法全体の立場から考え相当である。従つて本件においては、青葉丸沈没の日の属する昭和二十四年六月の各被保険者の標準報酬月額を各保険給付額の算定基準とするのを相当とすべく、当事者間に争のない事実によれば、被保険者の標準報酬は昭和二十四年六月一日以降大上一雄の分第十四級月額一万四千円河野敏勝の分第五級月額四千円であり、原告大上は一雄の妻のとして遺族年金受領の第一順位者の資格を有し他に十六歳未満の遺子二人があり、河野敏勝には年金の支給を受けるべき者がなく原告河野は敏勝の父として敏勝の母と同順位で遺族一時金を受ける資格を有するから、右被保険者等の職務上の死亡により原告大上の受けるべき年金の額は、法第五十条第三号第五十条ノ二第一項第五号による最終標準報酬月額一万四千円の五月分及び法第五十条ノ三第二項第四十九条ノ四による遺子二人に対する一人分二千四百円の加給分を合計した金七万四千八百円であり、原告河野の受けるべき遺族の一時金の額は法第四十二条ノ三第一項による最終標準報酬月額四千円の三十六月分金十四万四千円となるので、右と同じ趣旨から各保険審査官の決定を取消し右同様の金額の保険金をそれぞれ原告等に支給すべきものとした本件各審査決定には違法な点はなく、右各決定の実体的な違法を理由とする原告等の各請求も失当を免れない。

よつて原告等の本件各請求をすべて棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 井口牧郎 恒次重義)

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